2016年08月26日

生薬量が倍や濃度が濃いと効果が高いのか!?

最近、うちのメールによく似た質問が来るので、一般的にすごーく誤解されていることなんだろうなと思って、その事について僕なりに説明してみたいと思います。

何の誤解かというと「医療用の漢方薬は含有されている生薬量が多いから良く効く」とか「エキス量が多いから良く効くとか」といった類のもの。

実際、医療用としても販売している漢方薬メーカーの営業さんが、ドヤ顔で「うちの漢方薬のエキス量は医療用と同じで何倍も濃いものですから」なんて説明してまして、医者なんて、持ってきた資料を鵜呑みにする人が多そうなので「医者の中にも漢方薬の生薬量やエキス量が倍の方がいい!」なんて意味不明なことを信じている人がいるんだろうなーと思いました。

「エキス量が濃い」

有効成分が多そうだから、効きそうですよね。
でも、漢方薬で重要なのは、そこではないのです。

病院のお薬は、単独の症状に対して、薬の持っている作用成分の効果で、無理やり体の反応を変え症状をなくします。

例えば、痛み止めだと痛みを発する物質を薬の成分でカットしてしまうのです。
作用成分自体が痛みなどをカットしますので、当然、その成分は量が多かったり、濃度が濃いほど、よく効きます。

ただし、効くというのは、痛みを抑えるだけで、根本的に治るわけではなく、あくまで薬の力だけで効くのです。

漢方薬が濃度が濃くても意味がないのは、漢方治療の原則にあります。
そもそも、今から説明する漢方治療の原則を一般の方だけでなく医者も誤解しているから漢方そのものが誤解されているのです。

漢方薬は、漢方薬の有効成分が、症状を無理やりカットするわけではありません。
だいたいの病院は、この部分を勘違いしているから、頭痛という単独の症状だけを目標に五苓散を処方したり、ひどいのになると不妊症とう病名に当帰芍薬散や温経湯を処方します。

この方法は、漢方を習いたてのド素人の初学の頃は、そこから手をつけないと、どうしようもないので、しょうがないですが、本来の漢方治療では「西洋医学の病名や各症状に合わせて処方する」なんて方法は存在しません。

本来は「証」とよばれる病的体質を分析し、その証に対して漢方薬を合わせるのが正道です。
しかし、今の漢方業界は勉強しない人向けのマニュアル漢方治療という邪道が正道になっているというなんとも不思議なことになってしまっています。

証に合わせるというのは、簡単に説明すれば、冷えている人には、温める漢方薬を合わせるということです。
これでプラマイゼロで何も悩みのない健康な状態に戻ります。

漢方治療は痛みを止めるとか、ホルモンを活性化するといった作用で治療を考えるのではなく、患者さんが「冷えているか?」「余分な熱がこもっているか?」を判断し、冷えている人には、温める漢方薬を。余分な熱がこもっているには冷やす漢方薬を合わせていきます。

だから、冷えている人に温める漢方薬は薬になりますが、余分な熱がこもっている人を温める漢方薬で温めたらどうなるでしょう?
夏の暑い部屋で更に暖房をいれるようなものです。
もう、最悪な状態になります。

ちなみに説明上、簡単にしていますが、現実の治療では、冷えているだけ。とか、余分な熱がこもっているだけ。なんて単純な状態はありません。
上半身は熱がこもっていて、下半身は冷えていて・・・と矛盾した要素がいくつのも重なっているのが証の現実です。

漢方薬は、おなじAという漢方薬でも薬になる人もいれば、毒になる人もいます。

漢方薬の生薬量が多いとか、エキス量が濃いというのは、体質と合っていない漢方薬を処方した場合、もし効果が強ければ、よりひどくなるということです。

もう一つの問題は、漢方薬というのは、生薬量や煮出す時間(濃度)が、あらかじめ厳密に決められているので、医療用もそうでないものも、漢方薬である限りは同じ生薬量と濃度じゃないとおかしくなります。

漢方の治療原則は「中庸であること」つまり、真ん中のバランスが理想なので、
生薬量が多いとか濃度が濃いというのは、西洋医学では効果の高さにつながるかもしれませんが、漢方では「多い」という要素もバランスが崩れていると言えます。

例え効果が高くても証(体質)の分析を間違えて、余分な熱がこもっている人を冷えている人と間違えて判断し、本当は、余分な熱がこもっている人に対して更に温める漢方薬を処方し、そして生薬量が多かったり、濃度が濃いということは、更に温める。という間違いを増幅させる結果になってしまいます。

ちなみに「余分な熱がこもっている体質」の「熱」は「体が熱い」とか「熱がある」などの単純な症状だけでなく、全身の症状から総合的に判断しますので、病名や症状だけをあてはめて処方している漢方は、体質を分析していないのは、もちろんのこと、間違って処方していることすら、判断できていないと思います。

漢方薬で気にしないといけないのは、生薬量や濃度の濃さではありません。
その漢方薬に使われている生薬の「質」です。
食べ物と同じなので粗悪で、まずいものが、どれだけ、たくさんあったって、まずさが倍増するだけ。
モノの良さが重要です。

生薬の値段はピンキリで同じ生薬でも上質と下品では全然、金額が変わってきます。

そして、一般的に医療用の方が良さそうに見えますが、医療保険の漢方薬は薬価といって定価が決められています。
生薬は質が良いほど値段も高くなりますが実費の漢方薬なら定価を高くするだけで良いのですが、医療用は、それが法律で、できません。

企業は定価が決まっていて利益を出したければ、(原価)つまり生薬を安くあげるしかなくなってくるのです。
だから、僕は漢方薬の「質」は医療用ほど粗悪になるんじゃないかと上記の理由で思っています。
漢方の専門家としては一般の方と逆の考えですね。
実際に生薬の値段(仕入原価)が上がって、利益が出せなくなって撤退した漢方薬メーカーさんは何社もあります。
今、医療用で供給されている漢方薬メーカーさんも年々、薄利でキツくなっているとこぼしています。

漢方薬の効果を気にするなら「生薬量」や「エキス濃度」ではなく「質」ですね。
簡単に考えれば、要は天然の鯛などと同じで、漢方薬も安けりゃ悪いということです。
高いからいいとも限りませんが。コツは目利きと情報です。


posted by 華陀 at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 漢方薬の選び方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする