治った結果、処方した漢方薬が合っていたと判断できるのですね。
漢方薬を飲む前から、先生が上から目線で「あなたにはこの漢方薬が合っています」と決めることはできないです。
それは「あなたには、この漢方薬が合っていると推測できるのですが・・・」の間違い。
あくまで、飲んだ後に治れば「○」がもらえます。
病院のお薬は、体質がなんであろうと飲む前から作用が決まっています。
そこが漢方薬と病院の薬の決定的な違いです。
実際にその新薬を飲んで効こうが効くまいが、その作用は変わらないのです。
漢方薬の場合は、治った時に合っていたとわかるので、逆から考えれば、治らないということは、漢方薬が合っていないか、そもそも、元の体質の判断が間違えているということになります。(厳密には、漢方薬はどれくらい飲めば効いてくるかは体質差があるので、1ヶ月飲んで変化がないから合っていないとはいえませんが)
「あなたには、この漢方薬が合ってるはずなのに・・・」ではなく、ただ、ただ、先生の腕が悪いだけ。
結果でしか、漢方薬が体質に合っていたかどうかわからないというのは、ねじ曲げられない漢方の原則です。
だから、僕たち漢方家は、漢方薬を飲んでもらう前にできるだけ、1人の人の体質に対して1種類の体質や漢方薬だけでなく、いろいろなバリエーションの体質や漢方薬を考えるようにします。
例えば、アトピーだったら、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、消風散、十味敗毒湯、荊芥連翹湯といった具合に。
この人の体質は、現時点で5パターンが考えられ、それに合わせる漢方薬は1つの体質ごとに1つの漢方薬で、これまた5種類が考えられる。
昔、師匠に言われたことがあります。
病院などでマニュアル漢方にちょっと毛の生えた人なら2、3種類の漢方薬の可能性を考え、そこから選ぶようにしているけど、この治る可能性のある漢方薬を考えるのは多いほど良いと。
1人の人に事前に1種類の漢方薬しか候補として考えられなければ、その1種類がアウトだったら、それでもう治療の方法は終了です。
かといって、やみくもに、たーくさんの種類を候補に考えても、今度はそこに一貫性がなければ、治らないからドンドン試していくという、とっても無駄な治療になります。
ここでちょっと誤解を解いておきたいのですが、マニュアルで漢方薬を選んでいる先生や一般向けに漢方薬のことを書いてある本などに、不妊症なら当帰芍薬散と温経湯とといくつかの漢方薬を使うように書いていますが、その種類からしか選んじゃいけないということではありません。
これは書いた人が勝手に決めているだけで、本当の漢方理論にそんな方法は書いてません。
あれは、わかりやすくするためにあえて、代表的なものを絞って書いてあるだけで、本来の漢方では、病名に対して合わせるのではなく体質に合わせるので、どの病気であろうと、基本は全ての種類の漢方薬が候補になってきます。
もちろん、何百種類の漢方薬が全て、治る可能性があるわけではありません。
その中でも可能性の高いものを選んでいかないといけないです。
その可能性の高いものを絞り込んでいくのが、漢方医の腕ですね。
なるべく漢方薬を絞りこんで、なおかつ、その漢方薬がダメだったとしても、次の一手の漢方薬をいくつかのバリエーションでもっている。
それが理想です。
漢方薬は、何百種類とありますが、全部、全く違う働きのものではないです。
中には微妙な違いしかない漢方薬や、よく似ているが、ある1点だけが違う漢方薬など、まぎらわしいものがたくさんあるのです。
治療前にいくつかの候補の漢方薬を考える時は、当然、似たような種類の働きの漢方薬を考えることが多いです。
そこから、体質の微妙な部分を汲みとって、1つの漢方薬を選ぶのですね。
漢方では、このいくつかの候補から1つの漢方薬に絞ることを「鑑別」といいます。
新薬のように1つの原因を探し、その1つの原因を治せる薬を選ぶのはなく、飲む前になるべくたくさんの候補になる漢方薬を考え、それを消去法的に1つに絞りこんでいくのですね。
ちなみに僕は、1人の患者さんに対して、初回は大体4つの体質と4処方を考え、その中で一番、治りそうな優先度の高いものから飲んでもらいます。
飲まれた結果、推測に反してよくならなければ、プランBが発動するのですね。
場合によっては、飲まれた結果から、初回の候補ではなく新たなプランBダッシュになることもありますよ。
本に答えが書いてあるわけではないので、先生の考え方の数だけ、候補の処方があります。