2016年10月05日

漢方薬が合っているかどうかは処方した先生しかわからない

昔から、うちによくある2つの質問があります。

「今、病院から処方されている漢方薬は自分に合っているでしょうか?」
というものと、
「2つの漢方薬のどちらの効果の方がよく効きますか?」

この2つの質問ですが、本格的な漢方治療をやっている僕には実は答えようがありません。

なぜなら、2つとも漢方治療の法則から外れた質問をされているからです。
なぜ、本来の漢方治療の法則から外れた質問なのか?

漢方は東洋医学という医学理論で成り立っています。
これは現在の西洋医学が古かった頃の理論などではありません。

西洋医学と東洋医学は全くの別物です。
東洋医学は今から約2千年前、西洋医学は2百年前に発祥しています。

西洋医学の昔のルーツを辿っていけば、東洋医学になるのではなく、発祥した年代も場所も全く違います。

西洋医学は体を部品単位で分けて、部品ごとの悪い部分を血液検査などで調べます。
その体の部分的な働きを薬などで強制的に変化させます。
だから、西洋医学は胃腸内科とか、皮膚科といくつもの「科」にわかれています。

東洋医学は、全身の状態である「証」(病的な体質)を見て全身の調整を行い、その結果、部分的な症状も治療します。

つまり、病院はアトピーの人は、皮膚表面のことだけを見て、皮膚表面の炎症やかゆみを抑えるステロイドが治療方法で、ステロイドを使っている間だけではありますが、炎症やかゆみが治ります。その場しのぎの姑息療法と言われるのは、こうった治療方法だからです。

一方、漢方ではアトピーの人をみる場合、皮膚だけをみません。
皮膚の状態も考慮しますが、「胃腸はどうなのか?」「便はどうなのか?」「上半身に余計な熱がこもっていないのか」などなど、アトピーを治すために全身の状態を見ます。
これは、例え、頭痛だけであっても漢方の場合は、全身をみます。

なぜなら、漢方は全身を支える健康バランスのどこかが崩れたから湿疹や頭痛という信号が出てきたと考えるからです。
頭痛なら五苓散ではなく、水の巡りの問題と頭痛が結びついていると見たら五苓散かもしれないというのが漢方の診断です。

冒頭の2つの質問「今、病院から処方されている漢方薬は自分に合っているでしょうか?」
「2つの漢方薬のどちらの効果のほうがよく効きますか?」という質問をされても僕が答えようがないのは、この漢方の治療の性質にあります。

漢方において「証」(病的体質)を分析する場合、全身の症状、状態をお聞きして、現在の証を診断しますが、この証はマニュアル的に「こんな症状があったら、この証」というようなマニュアルで決まっていません。

漢方では「体質と漢方薬が合っていた」というのは、漢方薬を飲まれた後に症状が治って初めて証明されます。だから「証」なのですね。

つまり、飲む前は僕も患者さんも、果たして、その漢方薬が合っているものなのかどうかわからないわけです。
だから、病名だけで「アトピーなら消風散」なんて選び方は、漢方の医学理論から見たら、絶対にありえません。
また、「おかしいな、この漢方薬で治るはずなのに・・・」なんてセリフも漢方ではありえません。

飲まれた後に良くなってきて初めて合っていたと証明できるからです。

先ほどのアトピーなら体質別で考えていくと、よく使う候補の漢方薬だけでも50種類は考えられます。
そりゃそうですよね。アトピーって言ったって、よく見たら、みんな状態が違うわけですから。

そのどれが正解かは、飲んだ後にしかわかりません。
おまけにもっと難儀なのが、治り方の2つの問題です。

ステロイドは、塗れば、かゆみが止まります。
いまいち、かゆみが止まらなければ、効果が強いものを使っていけば止まります。
実に単純で、良くなったかどうかのオン・オフだけ。
だから、医学知識のない患者さんでも効いたか、効いていないかがわかります。

ところが、漢方薬は、かゆみが止まるか止まらないかではなく、「湿疹の出る頻度が徐々に減る場合」、「かゆみがなんとなくひいてくる場合」、「湿疹の状態はあまり変わらないけど、熱感がひいてくる場合」など、人によって様々。
かならずしも、初回の飲み終わった時から「かゆみ」自体が止まってくるかどうかはわかりません。

また、より湿疹がひどくなるということもあります。
これすらも、単純に体質と漢方薬が合っていない場合と、巡りと代謝が良くなって一時期だけ悪くなっている場合があります。
現象は、どちらも、ひどくなっているのですが、「良い」、「悪い」、どちらも可能性があるのです。


そういった複雑な変化をちゃんと判断するために漢方では体質を診断し、同時に治療方針を決めます。治療方針は「漢方薬を飲みおわった時にどうなっていたら、効いていると見るか」ということです。

こういった理由で、どこか他の先生が処方された漢方薬が合っているかどうかを調べるためには、
最初に「体質」をどう診断したか?
飲み終わった時の「治療方針」はどのようなものか?
という情報が必要になるので、自分が体質を分析せず、考えてもない処方は、「この漢方薬が良いのか?悪いのか?」と聞かれても、僕の方法で体質も判断していないし、治療方針も立てていないので「何もわかりません」としか答えようがないです。

「2つの漢方薬のどちらの効果のほうがよく効きますか?」こちらも同じ理由ですね。
漢方は全身の状態から部分的な症状を治していくので「どんな効果」なのかどうかは、極論で言えば、どうでもいいことです。
「体質をどう診断したか」、「どんな治療方針で治療するのか」、これが必要なので、比較するのであれば、2つの体質と治療方針から、どちらがよりベストかを考えるしかありません。

手前味噌ですが、僕は本来の漢方を勉強している自負がありますので、もしかしたら、マニュアルで自信なさげに処方している医者よりも、「漢方に詳しいんじゃないか」と思われて、冒頭のような質問がよくあるのかと思いますが、例え、世界一詳しい先生でも、他人が処方した漢方薬が合っているかどうかなんて、実はわかりません。

いくつかの症状が良くなった。悪くなった。というような単純な判断はできません。
ですから、自分の飲んでいる漢方薬が合っているかどうか気になり、なおかつ、そこで続けたいと考えているのであれば、処方された先生、自分で選んだのであれば自分に聞いてください。

僕に聞かれても僕は何も診断も観察もしていないので、何もわかりませんとしか言いようがありません。漢方治療とは、いわば、一番ベストな漢方薬名を知ることではなく、一番、真実に近い体質を知り、一番ベストな治療方針を知ることです。


posted by 華陀 at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 東洋医学について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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