よくある誤解が、自分の気になる症状がよくなれば「合っていたんじゃないの?」と考えること。
そうなって当然だと思います。
だって、漢方薬を飲むのは何かの症状や病気を治したくて飲んでいるからです。
ところが、漢方の場合は、自分が気になっている症状が「良くなった」「悪くなった」で漢方薬が合っているかどうかを確認できるとは限らないのです。
漢方薬は特定の効果を期待して選ぶものではありません。
あくまで体質に合わせて選ぶものです。
例えば、アトピーならステロイドのような皮膚の炎症をしずめるとか、不妊症なら黄体ホルモンを活性化するとか。
そういった、特定の効果は漢方薬にはありません。
「この漢方薬が自分に合っていたら湿疹が治ってくるはず」というのは、自分側の都合です。
例えば、消風散には「どんな体質の人でもかゆみを止めます」なんて設定はないのです。
では、自分の気になっている症状で確認できない場合でも漢方薬が合っているかどうかが分かるのか?
分かるのです。
漢方治療では、漢方薬を選ぶ前に体質を判断します。
これは「あなたはアトピーです」といったような西洋医学の病名ではありません。
東洋医学独特の体質を判断します。
水毒証とか、瘀血証とか、血虚証とか。
(こういった要素が複数、重なっている)
西洋医学とは全く関係のない東洋医学独自のものです。
アトピーの人は、みんな、湿疹ができて、かゆいという状態は同じですが、体質はそれぞれ違います。
アトピーの人でも、ある人は、血の巡りが原因であったり、ある人は水毒といって水の巡りが原因だったり、ある人は肝の臓の機能が落ちていたり・・・
こういった体質の要素(証)をいろいろな症状や状況と組み合わせて、考え、推論を立てていきます。
水毒証は、汗とオシッコと便と冷え関係の症状と組み合わせて考えたり、瘀血証は月経と手足の冷えと頭痛や耳鳴りなどと組み合わせて考えたり、湿疹のできる場所などから考えたり。
とにかく、足が冷えてたら寒証とか、血の巡りが悪いから瘀血証とか、そんな単純な分析ではありません。
全身の症状をいろいろと組み合わせて、1つの体質を考えていくのです
この考えだされる体質に共通のマニュアルはありません。
体質は、ひとりひとり違うので、その都度、判断が変わります。
また漢方医によっても体質判断は変わります。
「あの先生は私の体質を●●証だと言っていたが、先生の見方は違うのですね」
そうです。先生によって判断は変わります。
そして、この考え出された体質を調整する漢方薬を選びます。
体質を調整する漢方薬を選んだ時、同時にその漢方薬はどんな風に証を調整していくか、良くしていくかも考えます。
ここで注意しないといけないのは、漢方医が選んだからといって「絶対に体質に合っている漢方ではない!」ということ。
漢方医学の体質判断は漢方薬を飲む前は推測でしかないのです。
で、この漢方薬が合っているかどうかを調べるのは、あらかじめ推測した体質の要素(証)が漢方薬の飲む前の推測通りに調整されているかどうかを、はじめの問診の時のように症状や状況から判断していきます。
それを簡単にまとめると、
@現在の環境や症状、病名から漢方的な体質を判断する。
A体質を調整する漢方薬を選ぶ。
B症状などが、どう変化すれば漢方薬が合っていたかの推測を立てておく。
(患者さんが気になる症状から変化するとは限らない)
C漢方薬を飲んでもらう。
Dあらかじめ推測していた変化の推測を現在の症状などを聞きながら確認し、判断した体質、それに合わせた漢方薬があっているかの答え合わせをする。
E推測した変化がなければ、違う体質や違う漢方薬を検討する。
この行程を経て、漢方薬が体質と合っていたかどうかがわかります。
ちょっと例えが違うかもしれませんが、自分で問題を作って、飲んでもらった変化を観察し、答えが合っていたかどうかを答え合わせする。
それの繰り返しで、患者さんの気になっている症状を最終的には根本的になくしていきますよ。
「漢方薬が体質に合っていた」というのは、推測通りに良くなった時に初めてわかるのです。
だから漢方医によって体質判断は変わるし、漢方薬を飲む前の時点では答えではないのですね。
あくまで治ったら、正解。
なので、自分の気になる症状が「良くなった」「悪くなった」「何も変化がなかった」だけでは、本当に体質に合っているかどうかは判断できません。